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大阪高等裁判所 昭和56年(ネ)2557号 判決

右第二五〇九号事件控訴人、右第二五五七号事件被控訴人(以下第一審被告会社という)

カオル産業株式会社

右代表者

廣本照雄

右第二五〇九号事件控訴人、右第二五五七号事件被控訴人(以下第一審被告という)

田仲宙明

右第二五五七号事件被控訴人(以下第一審被告という)

廣本照雄

右第一審被告ら訴訟代理人

保津寛

露口佳彦

佐々木信行

岡和彦

右第二五〇九号事件被控訴人、右第二五五七号事件控訴人(以下第一審原告という)

小林一重

右訴訟代理人

小村建夫

主文

昭和五六年(ネ)第二五〇九号

一、第一審被告カオル産業株式会社、同田仲宙明の控訴を棄却する。

二、控訴費用は、第一審被告カオル産業株式会社、同田仲宙明の負担とする。

昭和五六年(ネ)第二五五七号

一、第一審原告の控訴を棄却する。

二、第一審原告と第一審被告会社との間で、第一審被告会社の昭和五〇年三月三一日開催の株主総会における別紙二記載の定款変更の決議は存在しないことを確認する。

三、第一審原告の当審におけるその余の請求を棄却する。

四、当審における訴訟費用(昭和五六年(ネ)第二五〇九号事件の控訴費用を除く)は第一審原告の負担とする。

事実

第一  申立

(昭和五六年(ネ)第二五〇九号事件)

一  第一審被告会社、第一審被告田仲

1  原判決中、第一審被告会社、第一審被告田仲敗訴部分を取消す。

2  第一審原告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも第一審原告の負担とする。

二  第一審原告

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は、第一審被告会社、同田仲の負担とする。

(昭和五六年(ネ)第二五五七号事件)

一  第一審原告

1  原判決を次のとおり変更する。

(原審昭和五二年(ワ)第一三三九号事件について)

(一)(主位的請求)

(1) 第一審原告と第一審被告ら三名との間で、第一審被告会社が昭和四五年四月二二日にした一八〇〇株の新株発行は存在しないことを確認する。

(2) 第一審原告と第一審被告ら三名との間で、第一審原告が第一審被告会社の発行済株式六〇〇株を有する株主であることを確認する。

(二)(予備的請求)

(1) 第一審被告会社は第一審原告に対し、株主名簿記載の第一審被告廣本及び同田仲名義の各八〇〇株につき、それぞれ第一審原告へ株式名義書換手続をせよ。

(2) 第一審原告と第一審被告ら三名との間で、第一審原告が第一審被告会社の株主名簿記載の第一審被告廣本及び同田仲名義の各八〇〇株の株式を有する株主であることを確認する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告ら三名の負担とする。

(原審昭和四九年(ワ)第三一一二号事件について)

以下いずれも第一審原告と第一審被告会社との間において、

(一) (主位的請求)

(1) 第一審被告会社の昭和四九年三月二九日開催の株主総会における別紙一記載の定款変更の決議は存在しないことを確認する。

(2) 第一審被告会社の昭和四九年三月二九日、昭和五一年三月三一日、昭和五三年三月三一日及び昭和五五年三月三一日に各開催の株主総会における、廣本照雄、田仲宙明及び荒瀬清を取締役に、中佐藤政道を監査役にそれぞれ選任する旨の各決議はいずれも存在しないことを確認する。

(二)(予備的請求)

第一審被告会社の昭和四九年三月二九日開催の株主総会における別紙一記載の定款変更の決議並びに廣本照雄、田仲宙明及び荒瀬清を取締役に、中佐藤政道を監査役にそれぞれ選任する旨の決議は、いずれも取消す。

(三)(当審における新請求)

(1) 第一審被告会社の昭和五〇年三月三一日開催の株主総会における別紙二記載の定款変更の決議が存在しないことを確認する。

(2) 第一審被告会社の昭和五七年三月三一日開催の株主総会における、廣本照雄、田仲宙明及び荒瀬清を取締役に、中佐藤政道を監査役に選任する旨の決議が存在しないことを確認する。

(四) 訴訟費用は第一、二審とも第一審被告会社の負担とする。

第二  主張

当事者双方の主張は、次に記載するほか原判決事実摘示(ただし、原判決添付別紙一、二を本判決添付別紙一、二と差替える)と同一であるから、これを引用する。

一  第一審原告は次のとおり陳述した。

1  第一審被告らの主張する第一審被告会社の昭和四九年三月二九日開催の株主総会における定款変更の決議内容は、別紙一記載の上段の旧定款を下段の新定款のごとく変更するというものであつた。

2  第一審被告らは、第一審被告会社の昭和五〇年三月三一日開催の株主総会で別紙二記載の上段の右新定款の一部を下段のごとく変更する旨の定款変更の決議をした旨主張する。

3  しかし、第一審原告が第二一回定時株主総会の招集通知に記載の開催日時である昭和五〇年三月三一日午前九時に、開催場所である大阪市東成区大今里南六丁目三番一〇号第一審被告会社応接室に赴いたが、同日同場所では株主総会は開催されなかつた。

4  第一審被告会社の全株式を所有する第一審原告は、第一審被告会社の昭和五七年三月三一日開催の株主総会に出席し、廣本照雄、田仲宙明及び荒瀬清を取締役に、中佐藤政道を監査役にそれぞれ選任する旨の決議事項に反対した。

5  そこで第一審原告は、当審において、新たに前2、4項記載の各株主総会決議がいずれも存在しないことの確認を求める次第である。

二  第一審被告らは次のとおり陳述した。

当審における第一審原告の右主張のうち、第1、第4項は認め、第3項は否認する。第一審原告主張にかかる総会はいずれも適法に開催され、かつその決議はいずれも有効に成立した。

第三  証拠関係〈省略〉

理由

一〈省略〉

二次に第一審原告の当審における新請求について検討する。

〈証拠〉によれば、次の事項が認められ〈る。〉

1  第一審被告会社の第二一回定時株主総会は、会日を昭和五〇年三月三一日午前九時、招集場所を大阪市東成区大今里南六丁目三番一〇号第一審被告会社応接室と定めて、同月一四日に招集通知が発せられたが、右招集場所は前年度と同一場所であつた。

2  第一審原告は、会日の定刻前に招集場所に赴いたところ、第一審被告廣本の息子邦雄が、定められた招集場所から道路一つ隔てた同区大今里南二丁目三番二三号所在の第一審被告会社建物二階応接室で株主総会をする旨告げて、そこへ案内しようとしたが、第一審原告はこれを断つた。

3  第一審被告廣本、同田仲、訴外荒瀬清は右二丁目三番二三号の応接室で定刻に株主総会を開催し、第一審被告会社事務員柏原栄蔵が立会し、一〇分足らずで議事を終了し、別紙二記載の上段の定款を下段のごとく変更する旨の定款変更の決議を了した。

4  第一審原告が、招集場所から実際の開催場所へ移動しなかつたのは、事前に開催場所変更の通知がなかつたことと、従来から総会で悶着があつたため、場所の変更を了承して移動すると、その移動しているわずかの間に株主総会は既に終了したと宣告されることを危惧したためであつた。

5  第一審被告会社が招集場所たる六丁目三番一〇号の本社建物内で株主総会を開催しなかつたのは、当時同社の応接室は二丁目三番二三号所在の建物二階に移動しており、従前の応接室は事務室となり応接セットも置いていなかつたからではあるが、出席が予定される株主、取締役らはわずかに五名に過ぎず、立会事務員も一名であるから、招集場所での株主総会の開催が物理的に不能だつた訳ではない。

右事実によれば、第一審被告会社の第二一回定時株主総会は招集通知状に記載された場所と異なる場所で、第一審原告を除く株主らが集つて開催されたものであると認められる。

ところで、株主総会の日時、場所が招集通知状に記載されて会日の二週間前に発送されなければならないとされている趣旨は、その記載が株主に対して出席の機会を確保するために重要な意義を有するからである。従つて右認定の如く総会開催の直前になつて招集者が任意に会場を変更することは、やむを得ない事情がある場合以外には許されないと解すべきである(勿論、一たん所定の場所で開催のうえ総会の決議によつて即日会場を他に移すことは差支ないけれども。)ところ、右認定事実に照すと、本件では総会開催の直前になつて会場を変更しなければならないやむを得ない事情があつたものとは認められない。殊に本件の場合、開催直前になつてやむを得ない事情もないのに招集場所を変更したのは招集者であるから、第一審原告が変更を了承して実際の開催場所に出席したのであれば格別、第一審原告がこれに応じなかつたことは右認定のとおりであるから、第一番被告会社としては一たん招集場所で開催のうえ(招集者らがすでに実際の開催場所に集合していたとしても、道一つ距てた招集場所へ移動するのは容易なことである。)、そこで開催場所の変更の決議をすることは可能であるのに、これをせず、恰も第一審原告がいないのが幸いでもあるかの如く、議事を強行して一〇分足らずで終了した事実及び前認定の如く従前の株主総会で悶着のあつた事実並びに弁論の全趣旨を合わせ考えると、第一審被告会社は殊更に第一審原告を避け、これを除外する意図があつたものと推認せざるをえないのである。のみならず、第一審原告は第一番被告会社の株式総数二、四〇〇株のうち約四七パーセントに相当する一、一二〇株の株主であつて、定款変更を単独で阻止しうる立場にあるのであるから、かかる株主を殊更に除外するにおいては株主総会の成立手続に著しい瑕疵があつたものというべきである。そうすると、本件の第二一回定時株主総会は招集場所で開催されたものでないことになる(第一審被告廣本、同田仲の二名の株主が任意に集まつた会合にすぎないと評価せざるをえない。)から、法定の株主総会が開催されたものとはいえず、それ故そこでなされた定款変更の決議は株主総会の決議とはいえない道理である。よつて、右決議は株主総会の決議としては存在しないものと解するほかはない。〈以下、省略〉

(荻田健治郎 井上清 渡邊雅文)

(別紙一)、(別紙二)〈省略〉

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